有機ELテレビ(OLED TV)と液晶テレビ(LCD TV)の消費電力はどちらが高いのでしょうか?
高画質の有機ELテレビの価格が下がってきましたので、新しくテレビを買う時に有機ELテレビと液晶テレビのどっちを選ぶのか迷うこともありますね。スマホも有機ELを搭載したモデルが普及し始めています。
テレビとスマホは画質と価格だけではなく、消費電力も気になる点です。
実はテレビについては、有機ELテレビの方が液晶テレビの方が消費電力が高いことをご存知でしょうか?
以下に紹介します。
有機ELテレビのデメリットについてこちらの記事で紹介しています。
有機ELテレビと液晶テレビの消費電力を比較!
液晶テレビと有機ELテレビの比較という意味では、厳密に言えばディスプレイ部分以外のスピーカーやチューナーなどの部分が消費する電力を除いて比較すべきですが、そのようなデータは公表されていないということと、通常はテレビとして購入して使用しますので、同サイズの液晶テレビと有機ELテレビで比較してみます。
ソニーの有機ELテレビと液晶テレビの消費電力
ソニーのブラビアの消費電力は、公式サイトによると以下のようになります。
液晶テレビ(55型) KJ-55X9500H 消費電力 244W、年間消費電力量 237kWh/年
有機ELテレビ(55型) KJ-55A9G 消費電力 386W、年間消費電力量 206kWh/年(参考値)
消費電力は、テレビがある瞬間に消費している電力で、ディスプレイ部分だけでなく、音声やチューナーなどいろいろな部品の消費する電力の合計の値を示しています。
これによると消費電力は、有機ELテレビの方がかなり高いということがわかります。
次の年間消費電力量とは、省エネルギー法に基づいて、一般家庭での1日の平均視聴時間(4.5時間)を基準に算出した、1年間に使用する電力量です。
少々ややこしいのは、消費電力の高い有機ELテレビの方が、液晶テレビよりも低い年間消費電力量となってしまっていることです。
有機ELテレビの年間消費電力量については「2020年4月現在、有機ELテレビについては省エネ法に基づく年間消費電力量が定義されていないため、液晶テレビの基準で算出した参考値です」との注釈が付いています。したがって、現時点では参考までにしておいた方がよいでしょう。
なぜこのようなことになるのかというと、それぞれの画素が発光して映像を表示し、真っ暗の部分は電力を消費せず、暗いほど消費電力が低くなるためです。したがって、有機ELテレビでは表示する映像によって消費電力が大きく変化し、暗い部分が多い画面ではかなり消費電力が下がります。
液晶テレビでは、エッジライト式の場合は、常に画面全体を同じ明るさで照らしており、あまり映像による消費電力の差がありませんでした。しかし、最新の部分駆動可能な直下型バックライトを搭載した液晶テレビでは、映像の各部分の明るさに対応してバックライトの明るさを制御できるようになり、かなり消費電力が下がっています。
映画のような暗い部分が多い映像ではなく、全般的に明るい地デジの放送などを通常は視聴しているのであれば、消費電力が低い方が年間の消費電力量も低くなるでしょう。
パナソニックの有機ELテレビと液晶テレビの消費電力
パナソニックのビエラでは、以下のようになります。
液晶テレビ(55型) TH-55HX950 消費電力 219W、年間消費電力量 131kWh/年
有機ELテレビ(55型) TH-55HZ2000 消費電力 424W、年間消費電力量 205kWh/年
消費電力は、有機ELテレビの方が液晶テレビのよりも高いです。
年間消費電力量では、液晶テレビに比べて、約56%有機ELテレビの方が多いことがわかります。したがって、有機ELテレビの電気代の方が液晶テレビよりも高くなることがわかります。
液晶テレビと有機ELテレビのディスプレイ以外の部品が、完全に同じわけではありませんが、同一メーカーの同じインチサイズのテレビ同士の比較ですので、おおまかな比較として参考になるでしょう。現状では、有機ELテレビの方が液晶テレビよりも消費電力が多いことがわかります。
有機ELテレビと液晶テレビの消費電力を実測する方法
有機ELテレビと液晶テレビの消費電力は、ワットチェッカーという機器を使用すると簡単に測定することができます。いくつかの種類のものが販売されていますので、以下にその1つを載せておきます。
このようなワットチェッカーを電源コンセントに取り付け、それを通してテレビの電源を取るだけです。もちろんテレビ以外のものにも同様に使えます。
この製品は、表示画面が大きく、明るいので非常に見やすくおすすめです。つい測ってみたくなるような機器ですね。
有機ELテレビや液晶テレビでは、表示する映像・画面や、明るさなどのテレビの設定などによっても消費電力が変わります。したがって、この機器で測定した結果は、その測定の間に表示した映像や設定での結果ですので、通常はメーカーが公表している消費電力の値とは異なることは理解しておきましょう。
有機ELテレビの消費電力はなぜ高い?有機ELスマホは?
テレビ用有機ELの消費電力
液晶テレビでは、LEDから発せられた光が、2枚の偏光板、カラーフィルター、液晶セルの開口部などを通過して画面から出てきますので、利用効率は数%程度です。
液晶テレビに比べると、有機ELは自発光のディスプレイで、電流を流した画素が発光するため、原理的には高い効率が期待されていました。それなのになぜ、前述ように有機ELテレビの方が液晶テレビよりも消費電力が多いのでしょうか?
いくつかの原因がありますが、もっとも大きなものは、現状の有機ELテレビはカラーフィルター方式だからです。
テレビ用有機ELは赤・緑・青の発光層を積層させて白色を作り出しています。画面全体が白色を表示している状態で、赤・緑・青のサブピクセルに対応したカラーフィルターを重ね、カラー表示を実現しているわけです。そのためカラーフィルターによる光のロスが液晶テレビと同様にあります。
また有機ELテレビにも、偏光板が使用されています。偏光板を使用しないと、外光が有機ELテレビに入射し、基板で強く反射されて著しくコントラストが低下するためです。有機ELの画質の最大の強みは、黒を黒らしく表示できるコントラスとの良さで、それは偏光板を使用することで最大限に発揮されます。この偏光板によっても大きく光がロスします。
有機ELには流した電流を光に変換する内部量子効率と、発光した光を取り出すことができる外部量子効率があります。内部量子効率が高い発光材料の開発がまだ続けられていますが、特に青色については比較的効率が低いと言われています。また原理的に外部量子効率を100%にすることはできず、せっかくの光をすべて利用することはできません。
以上の原因が積み重なり、前述のような有機ELテレビの効率となっています。
スマホ用有機ELの消費電力
スマホ用の有機ELパネルは、テレビ用とは異なり、赤・緑・青のそれぞれの画素を塗り分けて作製しています。したがって、カラーフィルターを用いずにフルカラー表示が可能です。カラーフィルターを外すだけで約3倍効率が高くなりますので、大きいですね。
スマホの消費電力はテレビのようにわかりやすく表示されていないため確認しにくいですが、液晶ディスプレイよりは低いようです。
有機ELテレビの消費電力は下がらないの?
現状の有機ELテレビの消費電力が限界なのでしょうか?効率を向上させるためのいろいろな努力が行われています。その中でももっとも期待されているのは、印刷方式による有機ELパネルの製造です。
印刷方式では、紙にインクジェットプリンターで絵を描くように、赤・緑・青の画素を塗り分けることができます。その結果、カラーフィルターが不要になります。カラーフィルターの透過率は約3分の1ですので、これが不要になれば単純計算で3倍程度効率が上がる可能性があります。
印刷方式はまだ開発段階で、大型のテレビ用の有機ELパネルの製造に利用されるのはまだ先の話になります。現状では印刷方式用の発光材料の効率もまだ低いようですので、消費電力が単純に3分の1になるとは思えませんが、液晶テレビと同等かそれ以下の消費電力となる可能性は高そうです。今後の開発の進展に期待したいですね。
有機ELの印刷方式による製造については、こちらの記事「有機ELの印刷および蒸着方式による製造方法の課題は?」をご覧ください。
まとめ
液晶テレビと有機ELテレビの消費電力を比較してみました。現状では有機ELテレビの方が消費電力が多いですが、さらに開発が進んでいけば、将来、有機ELの消費電力の方が少なくなる可能性はあります。
有機ELテレビのデメリットについてこちらの記事で紹介しています。
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